りく・なつ防災コラム

【能登半島地震を振り返る】いま「同室避難」をスタンダードに

防災対策

2024年元日に石川県能登半島を中心に発生した能登半島地震から、本日で丸2年が経ちました。

厳しい寒さと繰り返す余震の中、多くのペットとその家族が過酷な避難生活を強いられたことを、私たちは忘れてはなりません。この節目に、当時の課題を振り返り、これからの防災を「同室避難」という視点でアップデートしていきましょう。

能登半島地震でのペットの支援体制

能登半島地震では、過去の震災の教訓を踏まえ、初動段階から行政、専門家、ボランティアが連携した多角的な支援が行われました。

1. 相談・診療体制の構築
動物救護本部・相談窓口の設置: 被災した飼い主が困りごとを相談できる窓口を設置。

巡回診療と健康相談: 公益社団法人石川県獣医師会やVMAT(災害派遣獣医療チーム)などが、避難所や車中泊の拠点を巡回し、健康チェックや応急処置、持病の薬の提供を実施。

2. 物資支援と飼養環境の整備
ペット用品の配給: 避難所や拠点において、ペットフード、ペットシーツ、ケージ、首輪、リードなどの物資を無料配布。

飼養スペースの設置支援: 避難所の片隅や敷地内に、ペットの飼養場所を確保するためのテント設置や、仕切り板の提供などのサポート。

3. 避難の多様化への対応
一時預かり支援: 家屋の倒壊や避難所での共同生活が困難な場合、動物愛護センターや協力動物病院、民間のシェルターによる一時預かりが実施。

ペット同伴避難所の試行:一部の地域や施設では、飼い主とペットが同じ部屋で過ごせる「同室避難」が試験的に、あるいは民間主導で運営。

4. 公衆衛生・マナー啓発
衛生資材の配布と指導: 避難所内の衛生環境を保つため、除菌スプレーや清掃用具の配布、排泄物の処理ルールの周知。

5. 情報発信とマッチング
迷子動物の捜索支援: 逸走したペットの情報を集約・公開し、飼い主とのマッチングを支援。

6. トリミング・ケア支援
衛生面を保つため、移動式のトリミングカー等によるシャンプーやケアの支援を実施。

能登の静かな絶望が教えてくれたこと

こうした充実した支援が行われた一方で、支援が届くまでのタイムラグや、避難所ごとの支援体制の格差があったことも事実です。また、同伴避難や同室避難ができる場所が限られていたことにより、避難を諦めざるを得ない人もいたのです。

  • 「連れて行ける」だけで十分という誤解
    ペットを連れて避難所へ行く「同行避難」は、能登でも一定の浸透を見せたものの、自治体や施設管理者によって「室内可」「玄関まで」「屋外のみ」と対応がバラバラでした。雪の降る氷点下、避難所の玄関やブルーシートに囲まれただけの通路に愛犬を置き去りにし、自分だけが暖を取る。この格差が、ペット連れの被災者を「受け入れてもらえる場所」を求めて極寒の中を彷徨わせる、いわゆる「避難難民」化を招きました。
  • 「車中泊」という、命を削る抵抗
    避難所の廊下でさえ肩身の狭い思いをするならと、多くの飼い主が車中泊や半壊した自宅での生活を選びました。その結果、エコノミークラス症候群による健康被害や、孤立による精神的な疲弊など、避難所という安全網から零れ落ちたことによる二次被害が多発したのです。それは「自由な選択」などではなく、家族の絆を守るための、命を削る抵抗でした。
  • 現場の善意を「システム」が殺さないために
    一部の現場では、避難所運営側と飼い主が必死に交渉し、同室避難を実現させた例もありました。しかしそれは、ルールがない中での「特例」。アレルギー、鳴き声、排泄。これらの課題に対し、具体的な「分け方(ゾーニング)」や「ルール」の雛形がなかったために、ほとんどの現場は「一律禁止」という最も安易な選択をせざるを得ませんでした。事前の明確なルールと体制がなければ、善意だけでは「同室避難」は維持できないという厳しい現実を突きつけられたのです。

同室避難を当たり前にする3つのアップデート

1. 「同室避難」を国際標準の権利として捉える
欧米では、ペットと離れることによる精神的ダメージを「被災者の健康被害」と明確に定義しています。アメリカのPETS法が成立した背景には、ペットを捨てられずに避難を拒否し、命を落とした人々への反省がありました。ペット避難は「一部の人のための特別な配慮」ではなく、避難者の命を守るための「人道的支援」です。国内でも部屋ごとに「ペット可・不可」を分けることで成功している自治体があります。同室避難は被災者の血圧を安定させ、抑うつを防ぐ「心の処方箋」であるという認識を広め、地域の防災計画へ反映させていく必要があります。

2.飼い主の「覚悟」が社会を変える
同室避難をスタンダードにするための最後の鍵は、飼い主の「社会性」です。ハウストレーニング、徹底した衛生管理、抜け毛対策。これらを単なる「マナー」ではなく、「同室避難を実現するための必須スキル」へと認識を改めましょう。「うちの子がここにいても、誰にも迷惑をかけない」という実績を積み上げることにより、周囲の理解を得るための最大の武器となるのです。

3.避難先を多層化する
同室避難の標準化を目指すことは重要な取り組みですが、とはいえ、すぐに実現できるものではありません。そのため、いざという時の避難先を平常時から検討しておきましょう。避難所がペットの受け入れを行っていない場合、まず考えられるのが「自宅」です。自宅の耐震性や強度を見直し、「在宅避難」ができる環境であれば、飼い主もペットも安心して過ごせます。しかし、地盤沈下や津波などにより自宅に留まり続けることが困難になる可能性も大いにあるため、以下のように、複数の避難先を検討しておかなくてはなりません。

  • 被災地から離れたところに居住する家族・友人などの信頼できる相手と、お互いの避難について相談しておく
  • 飼い主同士のコミュニティを作り「被災時の預かり合い」や「一時避難先としての提供」を約束しておく
  • 避難所以外に動物病院やペットホテルなど、被災時に受け入れを行っている施設をピックアップしておく

在宅か避難所か、という二者択一の状況に追い込まれてしまうと、肉体のみならず精神的にも疲弊してしまいます。災害に遭った時、できる限りペットと一緒に避難できる方法について、しっかりと考えておきましょう。

「家族だから、隣にいたい」を未来のスタンダードに

能登の余震が続く暗闇の中、愛するペットの小さな心音だけを頼りに夜を明かした人々がいます。 「家族だから、離れない」 その当たり前の想いは叶えられるべきではないでしょうか。ペットを飼っている人もそうでない人も、自分事として考えていかなくてはならない問題が「人とペットの同室避難」なのです。

今なお、能登の復興は続いています。これからも様々な災害に直面する時が来るでしょう。そうした被害を目の当たりにして来た私たちが目指すのは、ただの「避難」ではありません。 誰もが、愛する存在を腕の中に抱いたまま、安心して明日を待てる社会。 その「スタンダード」を、能登の教訓を糧に、共に創り上げていきましょう。

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